COLUMN 不動産売却コラム

2025/12/10(水)

譲渡所得計算で知るべき減価償却費取得費の考え方

不動産を売却する機会に直面した際、その売却益に対して課される税金について、どのように計算されるのか疑問に思うことは少なくありません。
特に、購入した建物の価値が時間の経過とともにどのように評価され、税額計算に影響を与えるのか、その仕組みを正確に理解しておくことは、有利な税務処理を行う上で非常に重要となります。
今回は、建物の売却における譲渡所得の計算において、取得費から減価償却費を差し引く理由とその具体的な計算方法について、分かりやすく解説していきます。

取得費から減価償却費を差し引くのはなぜか

建物の価値は使用経過で減少するから

建物は、時間の経過とともに物理的な老朽化が進み、また市場における経済的な価値も低下していくという性質を持っています。
この建物の価値の減少分を、税務上は「減価償却費」として捉え、不動産を売却した際の譲渡所得を計算する際には、購入時の取得価額からこの減価償却費相当額を差し引くことが定められています。
これは、取得した時点の購入金額そのものが、売却時点における実質的な取得金額ではなく、使用・経過年数に応じて価値が減少した分を考慮した金額で譲渡所得を計算することが、より実態に即しているからです。

譲渡所得計算の正確性を期すため

減価償却費を差し引かずに、建物の購入代金をそのまま取得費として譲渡所得の計算に用いてしまうと、本来価値が減少しているにもかかわらず、購入時の金額が控除されるため、意図せずとも利益が過大に計算されてしまうことになります。
これは、本来納めるべき税額よりも多くの税金を支払うことにつながりかねません。
所得税法では、建物の取得費は、購入金額からその建物の使用期間に応じて減価償却費相当額を控除した金額(実質的な取得金額)とみなすことで、より公平で実態に即した譲渡所得の算定を可能にしています。

建物の減価償却費の計算方法

建物の取得価額から減価償却累計額を計算する

建物の減価償却費を計算する上で、まず重要となるのが「取得価額」の確定です。
取得価額とは、建物の購入代金だけでなく、購入に際して支払った仲介手数料、登記費用、不動産取得税、さらには購入後に増改築等を行った場合の費用なども含まれることがあります。
次に、その建物の「減価償却累計額」を算出しますが、これは、建物が事業の用に供された日(または住居として使用を開始した日)から、売却するまでの各事業年度または各年において計上してきた減価償却費の合計額を指します。
この減価償却累計額を、建物の取得価額から差し引くことで、売却時点での帳簿価額、すなわち実質的な取得費を把握することができます。

法定耐用年数と償却率で計算する

建物の減価償却費を計算するには、建物の構造(木造、鉄骨鉄筋コンクリート造など)や用途(事務所用、住宅用など)に応じて定められている「法定耐用年数」と、それに対応する「償却率」が用いられます。
例えば、木造の住宅用建物の法定耐用年数は22年ですが、鉄骨鉄筋コンクリート造の事務所用建物であれば50年と定められています。
減価償却費の計算方法には定額法や定率法がありますが、一般的には、建物の取得価額から、法定耐用年数と償却率を用いて計算される減価償却累計額を控除した金額が、譲渡所得計算上の実質的な取得費として扱われます。

事業以外で使用した建物でも減価償却費相当額は差し引く

建物の減価償却は、事業用として使用している建物にのみ適用されるわけではありません。
たとえ個人が居住するための自宅として使用していた建物であったとしても、時間の経過とともに物理的な劣化や陳腐化により価値は減少していくという経済的な事実は変わりません。
そのため、税法上は、居住用として使用していた建物を売却した場合であっても、購入時の取得価額から、その建物の使用期間(居住期間)に対応する減価償却費相当額を差し引いた金額を、譲渡所得計算における実質的な取得費として算出することになります。

まとめ

建物を売却する際の譲渡所得税計算において、取得費から減価償却費相当額を差し引くことは、建物の価値の減少を反映させ、税額計算の正確性を担保するために不可欠です。
建物の構造や用途に応じた法定耐用年数と償却率に基づき、建物の取得価額から使用
期間に応じた減価分を計算し、実質的な取得費を算出します。
この計算は、事業用だけでなく居住用として使用していた建物にも適用されるため、不動産売却時にはこの減価償却の仕組みを理解しておくことが、適正な税務申告と節税に繋がります。

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